さよなら僕は君から産まれなおす
「だめよ。自分で決めるの」
『どうして?僕には決められないよ。今までだって、ずっと決めてきてくれたじゃないか』
「私は、なんでも私の言うことを聞いてくれる貴方が好きよ。でも、同時に罪悪感もずっと感じているの」
『そんなの感じる必要ないじゃないか。僕だってそう望んできたんだ』
「あなたが幸せになれるだけの情報は、現代の日本なら十分なほどあるよ。その中から、好きなのを選べばいい。それだけのことだよ」
『だから、それが僕にはできないんだよ、知ってるでしょう?僕は何にも決められないって。お願いだよ、決めて欲しいんだ』
「ダメ。ホントはね、とことん利用するつもりだったのよ?貴方のこと。でも、身体を重ねていくうちに、情が出てきちゃった。心を鬼にしきれなかった」
『利用してよ!僕のこと、ずっと利用してよ!僕の居場所は貴女の側しかないんだ!』
それが、年上の彼女との最後のやりとり。
それっきり、彼女は一切喋らなかった。
いや、本当は彼女は最初から喋ってなんかいない。
彼女は、働いていた頃の最後の貯金をはたいて、僕が70万円で買ったラブドール。
幸せな9ヶ月をありがとう。
僕は明日、ハローワークへ行く。
彼女は初めて会った時と同じ
心の中までも見透かすような目で
いつまでも僕を見つめていた。