抱きしめ合ったら脇汗

1年ごとテーマの変わる冬眠型もてらじ村民ブログ

喫茶メープル

 

 

 

久しぶりにヒールのある靴で歩いたせいで、
足が痛くなってきた頃に、

たまたま入った喫茶店だった。


私はホットケーキが幼い頃から好きで、
バターとかではなく、
メープルシロップをかけて食べるのが
何より嬉しいおやつだった。


だから、メープルという名前のその喫茶店と、
お店の入り口の黒板に書かれた、
メープルシロップたっぷりホットケーキ”
の文字に惹かれて、店に入った。


店内には、制服姿の女子高生2人組みと、
カウンターには、つなぎを着た若い男性がひとり、

あとは、カウンターの中の
マスターらしき口ひげの紳士的なおじさんだけだった。

 

私は、「ホットケーキひとつお願いします。」


と注文した。


すると、注文を聞きに来ていたマスターを含め、
女子高生の2人とカウンターの若い男まで、
反射的に私のほうを見た気がした。


「ホットケーキですね。かしこまりました。」


と、マスターはカウンターの中へ戻っていった。


そしてホットケーキが焼きあがったようだった。

マスターはカウンターの上に壷のような
大きな陶器の器を“トン”と乗せ、
その中に出来上がったホットケーキをおもむろに
手でグシャグシャとちぎり、入れた。


(え?・・なに?)

と思っているところへ、マスターから


「ホットケーキのお客様、お待たせ致しました。」


と、声がかかる。


「こちらへお並び下さい。」


(並ぶ?どういうことだろう)


とは思ったが、とりあえずカウンターの上の
ホットケーキが入った壷の前まで行った。

すると、私が注文したはずのホットケーキだが、
なぜか若い男が壷の前にいる。

さらに、ふと気配を感じて振り返ると、
女子高生もうしろに並んでいた。


次の瞬間、若い男は両手を壷に突っ込み、
粉々のホットケーキのかけらと
メープルシロップまみれの両手を壷から出し、
前に進んだ。


「・・すみません、なんですか?これ」

と、マスターに聞くが、


「どうぞ。」


と微笑みがかえってくるだけだ。


状況に脳がついていかず、私は
思考停止のまま、若い男と同じように
壷の中に手を入れ、

ネットリとした感触に両手を浸し、
引き上げた。


「どうぞ。」


さらにマスターに導かれるまま、
若い男について進む私。


後では女子高生2人も
同じ事をしているようだった。


両手から放つ、メープルシロップ独特の
甘い匂いの中で放心していると、


「では、失礼いたします。」


と、若い男が振り返った。

意外といい男だった。


次の瞬間、私の手首をやさしく掴み、
シロップのたっぷりついた指を舐め始めた。


(え・・あっ!)


驚いた。

脳が溶けるようだった。

学生時代はもちろん、
社会に出てからも、こんな激しく
脳がかき回されるような、

全身がしびれるような感覚は味わったことがない。


男は、指と指の間も丁寧に舐め、
口の周りをメープルで子供のようにベトベトにしていた。


「ありがとうございました。」

若い男はそう言うと、
最後尾にいた2人目の女子高生に向かって
歩き出した。

そして私の前には、
もうひとりの女子高生がすでに立っていた。


「よろしくおねがいします。」


と、またもや私は、指をやさしく舐められ、
快感はリセットされることなく
幾重にも積み重なっていくように
全身に溢れた。


結局、最後尾にいた女子高生からも指と手を
舐められた私は、
思考回路はトロトロに溶け、
体も、立っているのがやっとだった。

 

するとそれまでカウンターの中で見守っていた
マスターが、


「ほら、あなたの番ですよ。」


と言った。


私は、焦点の定まらない瞳をしながら、
うっとりと、
若い男の指に顔を近づけていった。