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抱きしめ合ったら脇汗

1年ごとテーマの変わる冬眠型もてらじ村民ブログ

メンタルエイズ

2015年『創作ショート』

今は、男が弱い時代らしい。


僕はといえば、流行りものに敏感だからか
はたまた自分がないからなのか分からないけれど
もれなく弱い。


特に精神的に弱いらしい。
親にも、先生にも言われ続けてきた。



学生の頃、陸上の大会に出場して、競技場の個室トイレでうんこをしていたら

他校の生徒達がトイレに入ってきて僕の事を喋ってるのが聴こえてきた。



「西高のアイツ、練習はいいけど本番いつも大したことないから大丈夫。うち勝てるぜ」


本番。
その予言通り、僕は負けた。




そのうち、そんな弱い僕にも、恋人ができた。
僕を信じて、好いてくれた。

でも僕は恋人を信じることができずに、裏切った。
(何故か裏切った僕の方が号泣して、彼女を呆れさせた)



また、恋人ができた。
今度は心をまっすぐに覚悟を決め、彼女を信じた。

すると今度は、気持ちのいいほどにスッパリ裏切られた。


またまた恋人ができた。
一緒に暮らすようになり、社会人としても、真面目に働いた。
つもりだったが、頑張りすぎたのか無気力になり会社に行けなくなった。

1週間ぶりに事情を話しに会社に行ったら、その時付けでクビになった。
呆然としたまま会社から出て、とりあえずメールチェックすると、

恋人からメールが入っていた。

『本当は最初から、あまり好きじゃありませんでした。ごめんなさい別れます』

 

急いで家に戻ると、引越しは完全に終わっていた。


ショックのあまり立てなくなりそうだったが、すがる思いでなんとか病院に行くと
真面目に見えるけれど、心の奥にただならぬ性癖を秘めてそうな、50歳前後の男性医師が言った。

エイズです。」


・・・・・え?


「いえ、と言ってもHIVの方ではなくて、通称メンタルエイズと呼ばれてる症例です。
そして、気をつけて欲しいことがあります。

あなたの心、つまり脳が今後、再び何らかの外的要因で傷ついた場合には、もうご自身でその傷を止めることはできません。」


・・・はぁ


「なので、今後は傷つかないように生活して下さい。なにしろ、ストレートに命に関わりますから。」










病院からの帰り道に適当に服を買い、明日からはもう会社に行く必要がないので、着ていたスーツをゴミ箱に捨てた。


スマホは、ホームレスのおっさんにあげた。


その日から
家族や少ない友人たちにも、僕の居場所は分からない。





ついでに言うと、ここが一体どこなのか僕自信もよく分かってない。




ただ一つ言えることは、毎日が平穏なこと。
だってこうして僕はまだ生きてるのだし。