いっぱい
「昔流行ったろ?元“弁当男子”だからさ俺。まかせてよ」
私は会社で毎日、夫の作った弁当を広げる
「いいんだよ。作るの楽しいんだ」
前の夫に暴力を振るわれ続けた話をしてしまったせいだろうか
そのせいで哀れな女に思われて優しくされているのかと
疑ったりもした
そんな私の疑心なぞおかまいなしに、夫はただただ明るく、私に優しかった
夫の作る弁当は、濃い味付けの好きな私には少し薄かったけれど、弁当箱を開けた瞬間に分かるほど、それには愛情が詰まっているのが分かった
年老いた両親や兄弟、仲良しの友人数人は、前夫との暴力の事を知っている分、今の夫をとても気に入って
「よかった。本当によかった」
と涙を流して喜んだ
私の暗めの性格からは、夫は太陽のように見えた
毎日毎日、優しく、眩しい日々が続いた
毎日
毎日
夫は眩しく
弁当からは愛情が溢れていた
毎日
毎日
幸せは続いて
夫はずっと明るくて
ある日私の心は
いっぱいになった
何かで、いっぱいになった
何かでいっぱいになった私は
誰もいなくなったお昼休みの社内で
夫が作った弁当の中身を
ゴミ箱に捨てていた