抱きしめ合ったら脇汗

1年ごとテーマの変わる冬眠型もてらじ村民ブログ

離婚記念日

あ、マスターありがと。


はい、ということでね、


みなさん改めましてこんばんは。


まさかこの中に知らない人はいないでしょうけれど、スナック「しがらみ」のママです。


今日はね、あたしの離婚記念日に多くの皆様に
お越しいただきまして、とっても嬉しいです。


あ、知らない方もいるんだったわね、

説明しておかなくちゃね。

 

そこにいるマスターが、あたしの離婚したダンナ、ってわけじゃないの。

彼は、言ってみれば店長さん。

ね。マスター。


あたしの前のダンナは、今、府中です。

そう、塀のなか。


府中って聞いて、分かるひとは分かると思うけど、

あそこは、初犯が落ちるとこじゃないわ。


彼が、その前にいたのは、網走。

あたしたち、まだその頃は結婚してたの。

 

でね、


彼、ある組織の鉄砲玉だったの。


いまどき、鉄砲玉なんて国宝級よ。業界では。

今の本物のやくざは見た目から中身まで、ほとんどカタギと変わらないもの。


そんな中であたしの前のダンナは不言実行、

抗争相手の親分のタマをとっちゃって。

 

でも今の世の中、鉄砲玉なんて気味悪がられるばかりだからね、

網走のオツトメを終えて出てきたら、

もうまわりに誰もいなかったの。


みんな、知らんぷり。

 

でもね、あたしは彼を愛していたから。

 

「このスナックを一緒にやろう、政ちゃん!」

て、言ったんだけど、


彼、悲しそうな顔してこう言ったの。

 

「塀の中に13年もいりゃあ、もう立派な塀の中の人だ。

お前は器量もいいし、美人だ。

俺みたいなひとごろしとくっついていたんじゃ、

ずっとクスブったまんまだろう。

お春。いいか。

俺と別れて、もう一度人生やりなおすんだ。

俺にはもう、世間がちょっとばかし、めまぐるしすぎる。」

 


泣いて止めるあたしに、一度振り返ったきり、

彼、行ってしまったの。

その足で、もう一度罪を犯すために。

 

彼が、再犯専門の府中刑務所に落ちたあと、

あたしたち、正式に離婚したの。

 

でもね、

この離婚は、あたしの愛した、前のダンナ、

政ちゃんからの贈り物だって、

あたしは思ってるの。

 

いま、こうして、たくさんのお客様に囲まれて、

お店を営業できているのは、そういうことだと思わない?


だから毎年、この日になると、

こうしてささやかなお祝いをしてるってわけ。


ざっと話せば、こんな短い話なのにね。


さ、というわけで、みんなグラスは持ったわね?


それじゃ、かんぱーい!

みんな、ありがとー!