抱きしめ合ったら脇汗

1年ごとテーマの変わる冬眠型もてらじ村民ブログ

新隊員が面白い

 

自衛隊は、面白いのである。

過去に在籍していた僕が言うんだから、間違いないと思ってほしい。

 

とりあえず憲法9条だとか、シビリアンコントロールだとか、勲なき軍隊だとか、

その他もろもろのややこしい話はさておく。

なぜなら、さておかないと、コワいからである。

 

あの組織の、徹底っぷりったらない。

 

まず、在籍していた僕ですら、謎すぎるほどのベールに包まれている

諜報部隊が、日々ネットやら電話回線やら電波やらを見回っておるので

下手なことは書けないし、言えないのだ。

 

特に、武器庫の場所とか、軍にとって不利益になることなんて

もってのほか。ちゃんと除隊する際には

 

(貴様分かってるだろうな?ん?下手なことしおったら、タダで済むはずがない事くらいは!まあ辞めるとはいえ何年もこの中で過ごした男にわからぬはずもないがな。念には念を入れさせてもらうぞさあ書け!さあ!よく読んでサインをするのだ!さあ!さあさあさあ!)

 

みたいな誓約書だって書かされる。

ていうかそんな機密情報ペラペラ喋っちゃう阿呆が本当にいるのか?

 

・・・いるだろうね!ハッハッハ!

 

そのあたりの動物園っぷりは、また後で書くとして、

まずそもそも、自衛隊に入隊する時点で、徹底して新隊員の過去やその他を

隅から隅まで調べ上げられる。(上官から聞いた話ね)

 

つまり、入隊できた時点で、怪しい活動家じゃないか、

軍にとって不利益な人物じゃないか、など、最低限のふるいにかけられ、

安全な人間だと判断されたと思って間違いないということらしい。

 

そして無事に入隊できた時点からも、1分単位で徹底が続いていくことになるのだが・・・

 

【新隊員という人生のボーナスステージ(?)が襲い掛かる!】

 

そうなのだ。何といっても、入ったばかりのヒヨッコたち。新隊員。

この時期には面白さがぎっしり詰まっている。詰まりまくっている。

業務スーパーのリッチショコラケーキくらい、みっちりとだ。

 

とりあえずバリカンである。

元銀行員も、大学院出も、元ビジュアル系バンドマンも、元歌舞伎町ホストクラブオーナーも、元いじめられっこも、単なるミリタリーマニアも、(ちなみに全部実際に僕の在籍してた教育隊にいたが)

 

過去なんかまったく関係なく、18歳から26歳までの男たちが次々とボーズにさせられ、長ーーーい廊下にパンツ一丁で背筋を伸ばして座る。

 

圧巻である。

誰が誰だかサッパリ分からない。

 

(あ、あのイケメン、ボーズになったら頭の形悪っ!どうしよう、急に友達になれるような気がしてきたぜ…)

 

みたいな気分になること受け合いだ。

ていうか、こんな調子で時系列順に話していったら、飛鳥涼の例のブログより長くなっちゃうのでガンガン割愛していくと、

 

とにかく前の日まで、ぶっちぎりで知らない奴ら9人が(教育隊のデカさ等によって違うが)、同じ班員となり、急に運命共同体になる面白さといったら、すごい。

 

9人もいれば当然、できるやつも、できないやつもいる。

だがしかし!そこが新隊員教育隊である以上、逃れられない宿命がある。そう、

 

『連・帯・責・任』の4文字である。

 

自分がミスしなくたって、関係ない。

班員の誰かがミスしたら、基本的に床にヨダレ、もしくは涙、または得体のしれない体液が垂れるまで腕立て伏せをさせられる毎日が待っている。

 

デキる奴も差別なく、キッチリ怒られる運命にある。

「おい!おい佐藤っ!!お前体力それだけ優秀なのに何で笠原の銃を持って走ってやらねえんだよっ!見ろよっ!笠原はもう銃の保持できてねえじゃねえかっ!てンめぇぇぇ!!!自分だけ良ければそれでいいのかお前はああああああああああっ!!!!」

 

とにかく、ここは世界がまるっきり違うことを、叩き込まれる。

僕が入って数日目で衝撃を受けた、鬼の班長(班長たちは、曹という位の若手)の言葉は、

「バカヤロー!!!ここはシャバじゃねーんだぞっっ!!!!!」

 

そう、確かに僕らは、塀の中にはいた。

あの困難極まる休日の外出の難易度。あれは仮出所の手続きだと捉えれば、なるほど合点がいった。

 

本当に、新隊員の外出は難しい。なんなんだあれは。

班全員の服装やらヒゲ。アイロンや靴磨き等のやることは終わっているか。

様々なややこしい提出物を受理されて、ようやくなのだ。誰か下手なミスでもしようもんなら、その週の外出は諦めるほかない。もちろん班の9人全員。

 

泣く泣く、通称PX(ピーエックス)と呼ばれる、駐屯地内に必ずある売店にみんなで行って、果汁グミでも買ってくるしかない。

 

ていうか、果汁グミを買いに行くのだって、どれほどの困難か知れない。

9人の班行動はもちろん、列をなすのだ。全員で掛け声を出しつつ腕を振って歩いて、曲がる時や止まる時はそれぞれの号令をかけないと誰も止まれないし、曲がれない。

 

新隊員より下の位はないわけだから、誰かとすれ違うたびに全員で立ち止まって

「お疲れ様です!」と声を張り上げて敬礼をビシッ!ビシッ!としないといけない。

 

だから、この記事を見ている皆さんに言いたい。

果汁グミをスッと買いにいけることは、幸せなことなんですと。

 

日々の生活の中、ほんのちょっとでもズルをすれば、どういうわけか鬼の班長にバレる仕組みになっている。実に不思議だった。なんならあの新隊員の生活以来、ズルをすると怖い!という刷り込みが入ってしまって、あまりズルできなくなった気もする。

 

ズルは当然、腕立て伏せである。

レベルによっては、そんじょそこらの腕立て伏せじゃ済まない。

 

もうね、新隊員を数か月もやってればね、どんないじめられっこだってね、腕立て伏せのアゴ付け(床にアゴをつける自衛隊スタンダードの腕立て。反動を使ったり体を反らしたり丸めたりしてはいけない。手の位置や足の位置も決まっている)が、50回くらいはふつうにできるようになっちゃうよね!

 

すべては団体行動を、頭ではなく体に叩き込むため。

連帯責任のパワーは、すごいんですって。ほんとに。

 

だってね、例えば自分が腕立て伏せ限界だとしますよね?

床にへばりますよね?

そしたらですよ。鬼の班長が、腕パンパンで涙と鼻水ズルズルな僕を立たせるんですよ?

 

「はい。宮下二士(二士は新隊員の階級。自衛隊で最も下っ端)は限界だそうです。なのでお前らは代わりに20回ずつ追加な。宮下はそこでみんなを見ろ。お前ができないっていうから、お前の分を、みんながやってるんだ。見ろ!見ろおおっ!」

 

班員のみんなも、泣いてるんですよ?

そんなツラいことあります?普通の神経だったら、みんなに申し訳なくて、自分がふがいなくて、どうにかなっちゃうでしょう?もっと頑張ろう!俺!みんなに迷惑かけないように頑張ろう!って思うでしょう?

 

仲間意識、高まりますよねー。イヤでも。

実際に体験したらわかりますよ、新隊員はすごいんだから。

腕立て伏せからめた話だけで、こんなですよ?氷山の一角ですもの・・・こんなエピソードなんて。

 

『可愛い子には旅をさせよ』なんて言いますが、僕のおススメは、

『可愛い子には新隊員させよ』です。

 

「ああ、大丈夫です。僕ふつうに外で寝れますから。あ、でもできたらブルーシート一枚あれば最高です」

って言えちゃう、たくましい男になったりします。

 

もちろん、ならないやつもいます。

ていうか、ちゃんとクズもいます。

 

クズはたいてい、『脱柵』します。

だっさく、です。

 

ということで、長くなっちゃいましたが、新隊員の話はキリがないので、

今日はこの辺にしておきます。面白いこと、まだまだあったんですけどね。

 

もし反響があれば、『脱柵』する奴らは面白い

みたいな話なんかを書くかもしれませんが。

 

自衛隊とホモ、の話とかもいいかもしれませんね。

それでは隔週の日曜日にお届けしました。ごきげんよう