抱きしめ合ったら脇汗

1年ごとテーマの変わる冬眠型もてらじ村民ブログ

うどんが面白い

 

うどんは、面白いのである。

 

 

「え?旨い、じゃなくて、面白いなの?」と思うかもしれないが、

うどんはついに、ウマイということだけにとどまることを知らない、Tomorrow never knowsな麺類になったのである。

 

 

全ての人類の心の中には、『麺類カースト』が存在していると思う。

そして、そのカーストの特徴は、インドのそれとは違って、日々変動するということだ。

 

僕も以前は、うどんなんて、平民だった。

風邪ひいたり熱が出て食欲ないけど何か食べないといけない時に食うイメージもあった。

 

しかし、今の僕の中の麺類カーストは、こうだ!

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うどんが、絶対君主として頂点に君臨している。

 

いち平民だったうどんが、一気にトライアングルの最高峰である司祭にまで、身分を超えまくったのには理由がある。

 

 

香川県との出会いである。

 

衝撃、としか言いようがなかった。蕎麦どころである信州で育った僕は、いかにうどんに関してヨチヨチのベイビーだったかを思い知らされ、うちのめされ、ついでにあまりに旨くて、少し泣いた。

 

香川のうどんに触れることになったきっかけは、弟が、香川大学に入ったからだ。

引っ越しの手伝いで訪れた香川で、最初に行ったのは、たしか店の場所が変わる前の池上製麺所だったと思う。

 

まず、およそ飲食店とは思えない、普通の民家感に、初恋のようにドキドキした。

そして、お金をタッパーに自己申告で放り投げ、お釣りは勝手にタッパーの中から取る、というその大らかすぎる性善説スタイルに緊張で手足が震え、

 

さらに、(小麦の値段が上がる前だったこともあり)一杯100円程度という値段に、猛禽類から逃げ惑うウサギの如く、ガッ!と体ごと心臓を鷲掴みにされ、

 

這う這うの体で、どんぶりを持ったまま店の前の庭に出て、捨ててあるようなテーブルと椅子に座り、うどん狙いの野良犬を横目に「ズルルッ!」と一口食べた瞬間、

 

 

恋に落ちた。

 

 

 

興奮は頂点に達した。

おちんちんの先から白いもの(うどん)が出ちゃうかと思った。

僕にはもう、君しかいないと思った。

世界が滅びる時、君を抱きしめて死のうと思った。

 

 

小麦粉と水と塩だけなんて、嘘だよね?

僕だけには本当のことを言って欲しいんだ。

だって、どう考えたっておかしいだろう?

君は、おいしすぎる。

 

 

それから僕は、なにかと理由をつけ、弟のいる香川に行くようになった。

新たに店を巡るたびに、衝撃を受け続けた。

そして時は流れて、弟が大学を卒業しても、年に1度は香川に行くのを目標にするようになり、実に800軒とも言われる、膨大なうどん屋の数を誇る香川のおよそ1/8、100軒くらいのお店を食べ歩いてまわった。

 

気づけばうどんは身分を超え、カーストの頂点に君臨していたのである。

 

うどんの洗礼を香川で浴びまくって、すっかり“うどん教団”に入信した僕は、その後仕事の都合もあり、福岡に移り住んだ。

 

そして再び、うどん狂いの日々が始まった。なんだあの博多うどん文化は!

このうどんもめちゃくちゃウマイじゃないか。どうやったらこんな透き通るように柔らかいのにもかかわらず、伸びるコシのある不思議な麺になるのか。

 

いりこの産地である香川のダシは未だに愛しているし、目を見つめて顎を軽く持ち上げて「君が一番なのは、揺るがない」とまっすぐに言えるのだが、飛び魚のダシ(アゴ出汁)もまた「君みたいな子は、初めてだよ…」と、うっかり浮気してしまいそうなほどに旨い。

 

そしてなにより、ごぼ天文化である。ゴリゴリ触感のごぼうを斜め切りにしてサクッと揚げて、あの妙齢の艶っぽい和服美人みたいなうどんと一緒に食べようなんて、最初に思いついた奴は一体誰だ!なんてエロいやつだ!許せん!偉い!

 

 

 

しかし、幸せは長くは続かなかった。

僕は北へ向かう夜汽車に乗り(ホントはトヨタの自家用車で)、信州へと帰る時が来るのである。

 

駅のホームに、和服を着た柔肌のあの人(博多うどん)は現れなかった。

 

失意の中、銘菓“博多通りもん”を握りしめた僕は、にわかせんべいのお面で涙を隠して、北路についたのである。

 

 

 

現在も僕は、うどんではなく蕎麦どころである、信州に住んでいる。

振り返れば、いい恋を、してきた。

ふと、かつての白く透き通る柔肌を思い出しては、郷愁の想いでうどんを打ったりしている。

 

 

・・・いや、比喩とかじゃなくて、ホントに打ってる。

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水まわしして、こねて、踏んで、寝かせて、伸ばして

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切ってf:id:otoshita:20160714123230j:plain

香川っぽく、生醤油で食べたりしている。

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なかなか美味しくできるようにはなってきた。

うどんは食すだけでなく、打つのも実に楽しい。

 

楽しい。でも。

 

でも、やはり寂しい。ダッチワイフを抱いているような感じだ。

会いたい。今すぐ会いたい。会って熱い口づけを交わしたい。

「え?そ、そんな口の中まで…ああっ!君が入ってくるぅ!あついよぅ…熱いよぉぉ!!」

と、とろけるような淫夢ばかり見てしまうのだ。

 

 

 

そんな僕に、再び転機が訪れようとしている。

今後、居住の拠点を、半分ほど奈良県に移すことになりそうなのである。

 

奈良と言えば、関西圏である。

そして関西には、大阪といううどん文化の土地がある。

出汁も、いりこ、飛び魚、ときて、今度は昆布。

 

初めての田舎で、昆虫採集をして過ごすスイカ付きの夏休みを目前に控えた、小学生男子のような気持ちだ。

 

すでに大阪では先日、『かすうどん』を食べており、あの美味しさを知ってしまった今、僕は余計にワクワクしている。どこからともなく、教会の鐘の音が聞こえる。ぬるぬるの昆布のドレスに身を包んだ純白の君が、手を振って御堂筋を走ってくる。気がする。

 

 

僕とうどんとの恋物語は、まだまだ始まったばかりである。