長野のデカ盛りが面白い
ほとんどの女子たちの心に、一切響かないであろう言葉がある。
そう。それは『デカ盛り』の4文字である。
しかしだ。食べ盛りの男どもにとって、その4文字ほど、血湧き肉踊るものはない。
男は、『肉眼で確認できてインパクトのあるもの』をこよなく愛する傾向にある。
だから、時間を止めちゃうAVなんかが発売されたりするのである。
僕は、今でこそ『デカ盛りの呪縛』から抜け出すことができたが、
高校生の頃から数えるとおよそ20年間の長きに渡り、デカ盛りを愛した。
愛しすぎて、胃が弱った。
救急車でも運ばれた。
それは、焼肉の食べ放題で満腹になった当時二十歳の僕が「お腹苦しい…でもまだ食べたい…あっ!そうだ!」と閃いて、トイレでリバースをしてお腹を空かした後、もう一度限界までモリモリと食ってしまった結果であった。
救急車は、自分で呼んだ。
呼んだのは、その日の夜中。大学生当時のアパートの場所が入り組んでおり、救急隊員が担架をゴロゴロさせながら迷っている声が外から聞こえたので、玄関から這って出て「ぐぅぅっ!ずっ…ずびません、ここです…」と助けを求めた。
診断は『食べ過ぎ』
医師の呆れた顔が、今でも昨日のことのように脳裏によみがえる。
僕はきっと前世、飢えて死んだんだろう。
他にも、
女の子とたまたま一緒だったのでテンションが上がったのか何なのか分からないが、
ココイチのチャレンジカレー企画(確か1.4kg)に挑戦した事もあった。
今にして思えば、まったく謎のアピールである。
しかし当時の僕は、マジであった。
考えるほどに悲しすぎるが、僕がその時に脳内でアピールできる道を模索した結果、『カレーをいっぱい食う』という天竺(てんじく)にたどり着いてしまったのである。
あの娘の呆れた顔が、今でも昨日のことのように脳裏によみがえる。
(チャレンジにも当然失敗)
そんな風に、胃に多大なる負担をかけ続けていれば、胃が弱るのも当然であろう。
ついでに数年前の激太りからの、『背水の陣20kgダイエット』を敢行した結果、痩せることがいかに困難な道のりであるかをイヤというほど味わったので、今では少し大人になった。
デカ盛りだから、という理由だけで無条件にシナを作って色目を使うような、ビッチなメス猫ではなくなった。
しかしながら、男子たるもの、病気の小鳥が食うような、シャレオツを煮しめてキャラメリゼしたような『カフェごはん』で満腹するようになってしまっては、腹についた皮下脂肪とはうらはらの、か細いメンタルが保てないのである。
だから僕は、食い物の分別が(少しだけ)つくようになった今でも、
デカ盛りに対する熱い思いはマグマのようにコポコポと、腹の底で沸騰している。
ということで、ここで発表がある。
人気ネットラジオ『もてらじ』の企画である、『もてらじ村民』に参加させていただいているこのブログは、来年を持って、一任期を終了とする。
去年、2015年からスタートし、2017年までの丸3年で一旦、任期満了退職とさせていただきたいと思っている。(ちなみに3年間は、海上自衛隊の任期と同じである)
そして、毎年テーマが変わる、というカラーのこのブログの来年は、、、、
『長野にコレを食いに来てくださいゴハン』(仮)
という企画で一年間やりたいと思う。
そしてそこには当然、デカ盛りも含まれるというわけだ。
ということで。
最後に、もう待ったなしで閉店してしまったデカ盛りの名店を一つ紹介して、今回は終わろうと思う。
あれ以上のモノは、ハッキリ言って見たことがない。
そのメニューとは、『から揚げ定食』である。
何がすごいかって、そのから揚げの、『形状』が凄い。凄すぎる。
丸、なのだ。
丸。
サークル。
そしてそのデカさは、比喩とか例えとか、大げさとかそういうんじゃなくて、ソフトボールである。いや冗談ぬきで言ってる。
一度、厨房のなかをチラリと見たことがある。
そこで、店主のじいちゃんが何をしていたか、僕はこの目でハッキリと見た。
おじいちゃんは…
鶏の胸肉をオニギリみたいにぎゅうっ!ぎゅうっ!と両手で握って丸めていた…
そしておもむろに、巨大な中華鍋の中にゴロン…
ゴロン…ゴロン…ゴロン…ゴロン…
(えっ?えっ?)
と僕が、『初めてのカレに少しだけ強引に押し倒された時の女子高生』みたいなリアクションをしているうちに出てきた『鳥から揚げ定食』が、これだ。
ソフトボールなのだから当たり前なのだけれど、僕のこぶしより全然デカい。
から揚げ定食には、3個入りと5個入りがある。
「えー3個?オレかなり食うよ?足りないと思うけどなぁ」
とか言って調子乗ってるヤツらを、俺は次々とこの店に連行した。
そして、そんなヤツに限って、5個入りを注文するのだ。
結果。
ほぼ全ての“自称大食いぼうや達”が、『から揚げをたったの2個』しか食えないのである。
半泣きで、透明のビニール袋に、食べきれなかった唐揚げを詰めて帰る。
その姿は、甲子園で敗れ、砂を持ち帰る高校球児にピタリと重なるのであった。
名店『みや川』の、あの“モンスターから揚げ”を知ってる人間は、
実際に食べる前に、「余裕でしょ?」と調子こいていればいるヤツほど、連れていきがいがあった。
その数分ののちに、半泣きの高校球児と化す元大食い自慢チェケラ君を見て、なぜだか胸がスカッとするのである。
だって、3個入りでこれですよ…
皿にぜんぜん収まってないじゃない…(僕らはこれをザ・モンスターと呼んだ)
そして謎なのだが、モンスターの下には、地味に大量のケチャップスパゲティが…
このケチャップ炭水化物が、実に地味に、そして確実に、僕らを暗黒空間へといざなうのである。
更に5個になると、もうこんな…
写真だと、どう撮影しても伝わらないレベルになってしまうのだ。
僕はこの店で、人生初の『鳥のから揚げたった2個でダウン』という屈辱の経験をした。(ちなみに僕はその辺の大柄よりも食う。ラーメン7杯スープ飲み干し&餃子1人前を食って、5000円を勝ち取ったりしていた程度には食える方なのにもかかわらずの、唐揚げ2個ダウンなのだ)
その後も、3個まではかろうじて食えたりもしたが、4個目に突入する戦意が残っていたことは、ただの一度もなかった。
しかし、みや川さんの名誉のために言っておきたいのだが、
このから揚げは、奇跡の旨さであった。
まず、この巨大な鶏肉で、しかも胸肉なのにもかかわらず、火の通し方が神がかっていた。胸肉なのに、中心まで均一に柔らかい。これは凄いことである。
どんな魔法を使っていたのか知らないが、ここのじいちゃんは、火加減の天才だった。きっと若い頃は、少年チャンピオン漫画の名作『鉄鍋のジャン』とも互角の達人であっただろうと思われる。
外側しか衣が無いので、食べ進むと、から揚げを食っているというよりは、『茹で鶏』を食っている感覚である。スイートチリソースが死ぬほど欲しくなる味だった。
そんな名店も、まったなしである。
長野県の誇る、『その後の話題と思い出まで美味しいお店』の灯(ともしび)は、また一つ消えたのだった。
でも、長野のデカ盛りの面白さは、まだ終わらない。
信州に、ピンポイントで〇〇を食べに行く!という旅行もまた良いものだと思うので、来年は僕の好きな長野のうまいものをたくさん紹介して、有終の美を飾る予定でございます。おたのしみに。
ということで、本日はこれまで。
また偶数の日曜に。ごきげんよう。